第4期叡王戦を振り返る
第4期叡王戦は5月11日に行われた第4局の永瀬七段の勝利をもって終了し、永瀬叡王が誕生した。
永瀬叡王は、悲願の初タイトル獲得となり、高見七段は初めて獲得したタイトルを防衛できず失う結果となった。
今回、感じたことは、「タイトル防衛の難しさ」だった。
高見七段は昨年、金井六段を4-0のストレートで下し、初のタイトルを獲得した。
それから、1年。
叡王のタイトル獲得後も好調を維持し、ディフェンディングチャンピオンとして、挑戦者を待ち受ける立場となった、高見七段。
高見七段と言えば、人懐っこく、優しい人柄から若い女性をはじめとして将棋の初心者のファンが多い。
将棋のプロと言えば、各々の棋戦を戦う一方、将棋の普及に努めることが求められる。
藤井聡太七段の活躍とともに、将棋界ならびに若手棋士に対する期待が高まっている。
近年の将棋界は、5年前の「羽生九段の全盛」とも言うべき状況から、今や羽生九段でさえ「無冠」になり、若手棋士がタイトルを分け合い、奪い合う状況になっている。
その中で、若手の先陣を切った高見七段の叡王タイトルの獲得。
今期の第4期叡王戦7番勝負を迎えて、緊張からか直近の対局で、ミスが目立つようになったように思える。
そして、迎えた台湾での第一局。
序盤から、比較的優位に進めていた高見七段が逆転を許してしまう。
これは、棋譜ならべの人工知能(AI)の分析から見ても明らか。
「迷ってしまった」のだろうか「安全策を講じてしまった」のだろうか?
将棋はその時々の判断によって、局面が一変してしまう。
「ちょっとした隙」や「大丈夫だろう」と緩い判断をしてしまえば、一気に逆転をしてしまう。
そのような局面が、今回の番勝負のいづれの4局に渡って見受けられた。
余談になるかもしれないが、この番勝負期間を挟んで行われた、竜王戦4組ランキング戦の対藤井聡太七段戦でも、同じような判断ミスを犯してしまっている。
終盤の時間が少なくなる中での、ギリギリの精神状態である。
誰しも、間違える「人間」であるが故の判断ミス。
プロの棋戦ともなれば、いかにこのミスを無くすのかが、勝負の行方を決める。
番勝負に入るまでの、棋譜とこのタイトル戦を比べると、明らかにミスが目立ってしまっている。これは、タイトル防衛の「プレッシャー」によるものかもしれない。
高見七段は、順位戦こそ、C級2組ではあるが、紛れもなく実力はトップレベルである。
タイトルは「まぐれ」で獲得できるものでは決してない。
最終局で「マナー」についての指摘があったようだが、、、、。
私は知っている。彼が、誰よりも「マナー」「気遣い」「気配り」ができる棋士であることを。
どの棋戦だったか、忘れてしまったが、谷川九段との対局後に「自分に非礼があったのでは」と思った高見九段は谷川九段にわざわざお詫びの声掛けをしている。
もちろん、谷川浩司九段といえば「レジェンド」であり「礼儀」に非常に厳しい棋士である。高見七段のという棋士はとても繊細なのだ。
高見七段は、今回のタイトル失陥を機に「プレッシャー」から解放されるだろう。
紛れもなく、若手棋士の実力者である高見七段の今後の活躍に期待したい。
そして、3度目の正直で新世代のタイトル保持者となった永瀬叡王の活躍に期待したい。